課程博士と論文博士の違い
博士の学位を取得する方法として、2つの方法があります。ひとつは、大学院の博士課程を修了(所定の単位の修得と博士論文の審査に合格すること)し、学位を取得する「課程博士」です。
もうひとつは、大学院の博士課程を修了したのと同等以上の学力を有することを確認されたうえで、大学院が行う博士論文の審査に合格することで学位を取得する「論文博士」です。
学位規則では、下記のように定められています。
第2章 大学が行う学位授与
(博士の学位授与の要件)
第4条 法第68条の2第1項の規定による博士の学位の授与は、大学院を置く大学が、当該大学院の博士課程を修了した者に対し行うものとする。
2 法第68条の2第2項の規定による博士の学位の授与は、前項の大学が、当該大学の定めるところにより、大学院の行う博士論文の審査に合格し、かつ、大学院の博士課程を修了した者と同等以上の学力を有することを確認された者に対し行うことができる。
この4条1項によるものが「課程博士」、2項によるものが「論文博士」です。
自動車の免許取得で言えば、
教習所に通って講習を受け、試験に合格して免許を取るのが「課程博士」
教習所に通わず、一発試験に臨んで合格して免許を取るのが「論文博士」
といったところでしょうか。
免許と違うのは、試験を受ける前提条件が厳しいといった部分です。誰でも論文を提出し、審査してもらえるといったわけではありません。
課程博士と論文博士、学位の価値の違いは?
課程博士、論文博士、どちらの方が格上か、といった議論を見かけますが学術的な価値は同じです。運転免許の例と同じで、免許は免許、学位は学位で、その取得の経緯にはさほどの差異はないと思われます。
ただし、判断する側の人によっても考え方はそれぞれですので、その点はご注意ください。
課程博士と論文博士、どちらが取得しやすい?
これに関しては、課程博士のほうが断然取得しやすいと言えるでしょう。現段階で個人で研究を行っており、論文の学術誌への掲載等の実績が多数あれば別ですが、基本的には大学院にて教授から研究指導を受け、3年間かけて論文を書くのが一番の近道です。
論文博士制度は将来無くなる?
論文博士制度は廃止したほうがいいのではないか、という議論があります。そもそも、学位というのは大学における教育課程の修了にかかる知識・能力の証明として、大学が授与するもの、という考え方が一般的です。
博士課程に在学せず、論文の審査だけによって学位が取得できる論文博士制度は、外国ではあまり見られません。国際的に見ても認められないため廃止すべき、という意見もあります。
しかし、大学以外の場で自立して研究活動を行う能力がある者に学位を授与することは、生涯学習の観点などから考えると意義があるものだという意見も一方であります。
どちらの意見も正しく感じます。
この対応策として、論文博士においては、論文の審査だけでなく、大学院が研究指導を行う「博士課程短期在学コース」などの創設する案などが出ています。
新時代の大学院教育−国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて−答申 第2章−1−1−2
新設の大学院研究科で論文博士はいつから授与できる?
当該大学院の課程を経たものに対する博士の学位が授与された後に取り扱うものとされています。理由としては、
①博士課程修了者と同等以上の論文であるという比較すべき論文がない
②論文の受理・審査については研究科単位で行っている
などが挙げられています。
ですので、課程博士第1号の学位授与後、論文博士の授与が可能になります。
おわりに
私個人としては、論文博士は共に残していくべき制度であると思います。ただし、「博士課程を修了した者と同等以上の学力を有することを確認」の部分の判断が難しく、また金銭負担面でも、課程博士との公平性を担保できる仕組みづくりが重要になってくるのではないでしょうか。